ヤモリが天井に張り付いていられることや,ハスの葉が汚れていないことに疑問を感じた人は多いだろう。それらの疑問は,電子顕微鏡によりヤモリの手やハスの葉表面のナノレベルの構造が明らかになることで,解き明かされた。それでは,それらを応用して新たな素材が開発できるのではないか。このような,自然から学び新たな技術を得ようとする考えや研究分野をバイオ・インスピレーションという。まだ新しい研究分野といえるバイオ・インスピレーションの現状を,本書は実に興味深く紹介している。
ハスの葉が汚れにくいのは,なめらかに見える葉の表面に,まるで剣山のような微細な突起があり,これらが汚れをまとった水をはじくからだ。この技術はすでに家の外壁や便器などに利用されている。また,ヤモリがあらゆる壁をはい回ることができるのは,先端が百ナノメートル程度の細さに枝分かれした毛がつま先部分に密集しており,この毛先と壁面との間で分子間力という引力が生じるからだ。ヤモリの手の構造を利用することで,剥がすときに痛くない絆創膏が開発できるのではと研究されているが,今のところ実用化されていない。
ヤモリの手のように,バイオ・インスピレーションの中には,構造や原理はわかっているが実用化できないものも多い。なぜなら,自然が実に器用に複雑なナノレベルの構造物を作るのに対して,人間の技術はまだまだ未熟だからだ。このような事実に気づくと,自然の偉大さを感じずにはいられない。
科学技術そのものに閉塞感を感じる人が多い現代において,バイオ・インスピレーションは実に魅力的で,注目すべき分野である。本書は,その一部を実に生き生きと伝えてくれる。
日本でもバイオ・インスピレーションの研究に携わっている人は多い。その1人,東北大学大学院の石田秀輝教授は,ネーチャーテックというwebページでバイオ・インスピレーションの事例を数多く紹介している。本書に興味を持った人は,ぜひ見てほしい。(ヤモリの指ー生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー,ピーター・フォーブズ著 ,吉田 三知世 訳,早川書房)
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